呼吸のように・・・

俳句のエッセー

落蟬

鳴き切つて蝉の落ちたる木の周り   田島 和生

蝉は、かわいそうですが、とても短い一生です。
その儚い命の持ち主は、ひと時、山を揺るがすほどの声になります。
どれだけの蝉がいれば、このような声になるのかと、不思議に思います。
自然の壮大さは、計り知れないものです。
そのたくさんの蟬たちは、いずれ、命が尽きるときが来ます。
落蟬となって、カラカラと風に飛ばされる、哀れな姿。
鳴いていた数だけ、また、死んでゆくのです。
その蝉の命を謳った一句です。
木の周りと、淡々と書かれていますが、
木の周りを埋めている蝉の亡骸を思います。
哀れな蟬たちを、淡々と詠んでいるところに、むしろ強さが生まれています。
鳴き切ってとあります。
そのとおり、短い一生を、懸命に鳴き切って、
蟬たちは、木の周りを埋めているのでしょう。
命に対する繊細な感性が表れています。