呼吸のように・・・

俳句のエッセー

蛙の大鳴き

  一つ鳴き万の蛙の大鳴きす   田島 和生

田に水が張られてから、じわじわと蛙の声が増えて行きます。
蛙の声など、とんと聞いたことがない…という地域の方もあると思います。
それは、かわいそうなことだと思います。
が、それも勝手な思いであって、蛙が居なくても
私たちの生活に、何の影響もないとは、事実かもしれません。
電話を取れば、蛙の声が邪魔をし、
夜道は、闇一帯に、蛙が犇めき合っているのではないかと思うほど、
その鳴き声に満ちています。
天まで届くほどの大合唱です。
この句には、時間の流れも読みとれます。
蛙は、日暮れから、徐々にその声を高くしていく、その様子を思います。
ふと気づく蛙の声は、独唱であり、その息遣いもわかるほどの鳴き声です。
それを合図にしたかのように、呼応して、また、一匹が鳴きだします。
と、次の瞬間、数がわからないほどの入り乱れた大合唱に変わるのでした。
万の蛙の大鳴きとは、「合唱」という陳腐な表現を退けた、
単純で洗練された言葉ではないでしょうか。
そういえば、田島先生は、蛙のコレクターとして知られています。
蛙=帰るといい、縁起物でもあります。
ぜひ、かわいらしい蛙を見つけたら、お教えください。
先生のコレクションの一つとして、
大鳴きの中に加えられることでしょう。