呼吸のように・・・

俳句のエッセー

鳰の見ていて

  さつきから鳰の見てゐて釣れもせず   田島 和生

WEP俳句通信より、「近江逍遥」16句。
「雉」主宰 田島和生先生の作品を鑑賞しています。
琵琶湖は、別名「鳰の海」といい、鳰の姿を良く見ることができます。
鳰は、小柄で、泳ぐというより浮んでいるといった方がよく、
潜りが得意です。
琵琶湖の朝は、たくさんの小舟が浮かび、
それは、どれも釣り船だと教わりました。
朝日が湖を照らし、さざ波がまぶしく、美しい光景でした。
掲句は、釣りをしている姿を詠んでいます。
じっと魚が餌にかかるのを待っている釣り人ですが、
どれだけの時が流れたか、一向に動く気配がありません。
ただ、鳰は、楽しそうに潜っては浮いて、釣り人を眺めていたのでしょう。
釣り船に、じっと身を沈めている釣り人に、
鳰も、また、波に身を任せて浮んでいます。
釣り人を眺めているかのような鳰は、
某か、釣り人に語りかけているように見えたかもしれません。
鳰の見守る中、やはり、釣れそうな気配もありません。
侘しい釣り人の思いを、少し滑稽に捉えて眺めている
作者のまなざしが判る一句です。