呼吸のように・・・

俳句のエッセー

冬わらび

  合戦の山路崖なす冬わらび   田島 和生

倶利伽羅古戦場にある地図では、
平家が落ちて行った谷が記されています。
厳密に史実に則っているかどうかは分かりませんが、
谷深くへ続く崖が、印象的です。
今では、展望台ができ、
自然豊かな谷を一望できる場所として整備されてありますが、
かつてここで戦があり、たくさんの兵士が、この谷へ落ちて行きました。
この辺りから麓へ続く、細い流れがありますが、
その名を「膿川」と言います。
夏草が生い茂るころの、戦の悲惨さを現在に伝えています。
勝敗を分けたこの山の道を境に、
東の麓から攻め上ってきた源氏は、平家軍を西の谷へ追い落としました。
あまりに静かな冬の景色に、日を浴びている冬のわらびが、無邪気に思えます。
あまりに平穏な自然の風景に、かつての戦は、
ただ、夢物語のようでしかなかったことでしょう。