呼吸のように・・・

俳句のエッセー

能登の馬

能登の馬枯草食ひて海を見ず   田島 和生

昭和40年の作品。
二十代の頃、先生は新聞記者として、能登へ赴任されています。
その頃の作品でしょう。
自註には、こう書かれています。
「冬の能登は晴れれば、海は紺青に輝く。その美しい海を
 馬は見向きもせず、道の草を食う。」
能登の海は、他にはない美しい色が胸を打ちます。
夏には、淡い青に輝き、冬は紺青に輝く。
一説には、能登の海は浅いのだそうで、
そのために、日の光によって、実に澄んだ色を呈するとか。
その美しい海に見向きもせず、馬は枯草を食んでいます。
芸術的な感性は、人にしか与えられていないのでしょう。
人と動物との対比を根底に、馬の姿を詠みあげました。
「海を見ず」の表現が素晴らしい。
この句があるために、私は、馬の句は詠めないでいます。