呼吸のように・・・

俳句のエッセー

六月の浪

  六月の浪や沖より手をつなぎ   田島 和生

六月の浪。
沖に立った白波が、それぞれ横に広がって、
やがて一つの白波となり、打ち寄せてく来る様を詠っています。
「夏」でもなく、「初夏」でもなく、
その他、「卯波」「青葉潮」といった季語ではなく、
「六月」といったところが、この句の繊細なところでしょう。
おそらく、梅雨に入る前の季節。
もっとも美しく、明るい夏の日差しにさわやかな風、
その頃の海は青く、白波は一層際立ちます。
初夏の一時期に見られる波、それが「六月の浪」ではないでしょうか。
隠喩により、柔らかに写生されている波は、
それだけで、海の色、波のようす、空の高さ、風の涼しさが感じられます。
それらは、何も書き表されていませんが、
そのことがむしろ、想像の世界を広げてくれます。
その写生を引き立てている、「六月の浪」は、
強すぎず、波の様子を引き立てています。
季語と隠喩の表現とのゆるぎない組み合わせが、
この句の素晴らしいところです。