呼吸のように・・・

俳句のエッセー

チューリップ

  チューリップ喜びだけを持つてゐる   細見 綾子

細見綾子先生の代表的な作品です。
チューリップという題材は、意外に難しいと感じます。
季語が俳句の命、中心をなすものですから、
チューリップそのものを詠むのが望ましいと思います。
しかし、掲句のように、
見事に対象と一体化した作品にはなりません。
あるいは、チューリップをある景色の中で詠もうとしても、
つき過ぎ、観念的俳句から逃れること、それもまた、同じように難しいことです。
チューリップの花は、茎をまっすぐにして花を上げて咲きます。
どれもランプのように、日に輝いて、
また、ふっくらと日を溜め込んでいるかのようです。
そのさまが、見る者に喜びを与えてくれると言えましょう。
綾子先生は、それを、
チューリップが、「喜びだけを持っている」と表現しました。
逆に言えば、人には憂いがあるということかもしれません。
この花の明るさに、どれほど慰められ、励まされたことか、
そのように詠っているのかもしれません。
その感性もさることながら、
チューリップには、喜びしかないと言い切ってしまう俳句のセンスは、
誰にもまねのできない境地でしょう。