呼吸のように・・・

俳句のエッセー

受験

   受験子に出立の朝切火かな    青木 和枝

青木和枝『白山茶花』より。
受験の季節です。
私立は、ほとんど終わっているかと思いますが、
国立大学はこれからです。
受験生の方々には、実力を十分に出し切ってほしいと祈ります。
掲句は、受験の朝、子供へ切火をして送り出した、という場面でしょう。
「切火」とは、時代劇でよく見る、
出立の清めに火打石をカンカンと打って火花を散らす、
そのことを言います。
この日のために、長い間、努力を積み重ねてきたのです。
正真正銘、大勝負に出かける子へ験をかつぐ清めの儀式は、
家族ともどもの願いの深さをも物語っています。
現代に生きる、切火を打つ行為に新鮮な驚きがあります。
季語の「受験子(じゅけんし)」は、春ですが、
寒中の試験であったかもしれません。
寒中の寒さ極まる朝の空気に、
あるいは、浅春の凛とした朝の寒さに、
受験子の背中へ切火が散ります。
意気込んで出かけてゆく後ろ姿に、誰もが祈りを込めたに違いないでしょう。