呼吸のように・・・

俳句のエッセー

岩牡蠣

  岩牡蠣の岩に息づく忘れ潮   和生
牡蠣貝は、岩から「掻き」捕ることから、この名がついたと言われています。
岩牡蠣は沿岸の岩場に生息しており、
海水からプランクトンなどを摂って生きています。
干潮時は海水がないので、餌をとることはできませんが、
かなりの長時間でなければ、生きられないということはありません。
その間、岩にじっとして、潮を待っているのです。
掲句は、その干潮時の岩牡蠣を詠っています。
忘れ潮とは、干潮時に岩場などに残っている海水のことですが、
その僅かな潮を頼りに、岩牡蠣が息づいているというのです。
自然の理といえど、干潮時は、
小さな命にとって過酷であるに違いないでしょう。
その岩牡蠣が、命のよすがとばかりに、
僅かな海水に身を寄せている姿に、作者は胸を熱くしたのではないでしょうか。
「息づく」という表現に、その思いをゆだねています。
潮が満ちるまで、持ちこたえて欲しいという願いと、
そのいじらしい姿に自身を重ね、励まされたのではないでしょうか?
作者の鋭い観察眼と、繊細な感性が生み出した、優れた一句です。