呼吸のように・・・

俳句のエッセー

天に一人を増しぬ

「大陸の花嫁」井筒喜久枝さんが、10月9日、天に召されました。
平和への願い、その思いをつづり続けた生涯でした。
遺された家族の方々への祈りをこめて、お贈り致します。


天 に 一 人 を 増 し ぬ    セラ・ゲラルデナ・ストック 作  植村正久 訳

家には一人を減じたり 楽しき団欒は破れたり 愛する顔 いつもの席に見えぬぞ悲しき
さはれ 天に一人を増しぬ 清められ 救われ 全うせられし者一人を

家には一人を減じたり 帰るを迎ふる声一つ見えずなりぬ 
行くを送る言葉 一つ消え失せぬ
別るることの絶えてなき浜辺に 一つの霊魂は上陸せり 
天に一人を増しぬ

家には一人を減じたり 門を入るにも死別の哀れにたえず 
内に入れば空しき席を見るも涙なり
さはれ はるか彼方に 我らの行くを待ちつつ 
天に一人を増しぬ

家には一人を減じたり 弱く浅ましき人情の霧立ち蔽いて 
歩みしもしどろに目も暗し 
さはれ みくらよりの日の輝き出でぬ
天に一人を増しぬ

げに天に一人を増しぬ 土の器にねじこまれて キリストを見るの目暗く 
愛の冷ややかなること いかで我らの家なるべき 
顔を合わせて吾が君を見まつらん
かしここそ家なれ また天なれ

地には一人を減じたり その苦痛 悲哀 労働を分かつべき一人を減じたり
旅人の日ごとの十字架をになふべき一人を減じたり
さはれ あがなわれし霊の冠をいただくべきもの一人を 天の家に増しぬ

天に一人を増しぬ 曇りし日もこの一念に輝かん
感謝 讃美の題目 更に加わり 我らの霊魂を天の故郷にひきかかぐるくさりの環
さらに一つの環を加へられしなり

家に一人を増しぬ 
分かるることのたえてなき家に 一人も失わるることなかるべき家に
主イエスよ 天の家庭に君と共に座すべき席を 我らすべてにも与えたまえ