呼吸のように・・・

俳句のエッセー

桐の花

  山空のいちばん近き桐の花   田島 和生
「雉」三十周年記念号から、特別作品「山国」。
桐の花は、高貴な花のようで、高くに紫の花を咲かせます。
仰ぎ見れば、背景はいつも青空。
遥かなる空が桐の花の向うに広がっています。
藤のように柔らかではなく、凛と花を上げている姿は、
空を目指しているかのようにも思えます。
山は静かに暮れ、また、朝を迎えます。
桐の花の動じない姿、無垢な姿は、
おそらく幼い頃も、その昔から、こうして咲いていたのでしょう。
心情を写生に託し、抑えた表現のこの句は、
若き日の思いが映し出されているように感じます。
時は流れても、変わらないものもあります。
否、むしろ純粋になっていくこともあります。
誰にも邪魔されずに、空に咲く桐の花は、
時を経て、より一層、一途に空を目指している、
作者の今の心に重なっているのではないでしょうか。