呼吸のように・・・

俳句のエッセー

  蛍火の明滅滅の深かりき   細見 綾子

蛍が、夜の闇に光を輝かせている。
不思議にも蛍の群れは、
一斉に輝いては、また一斉に消えてしまう。

掲出句は、その一瞬の闇をとらえている。
蛍の光の群れが、より幻想的に浮かび上がればそれだけ、
闇の深さは、より一層、膨大に感じられるという。

光がなくなれば、木々や川の流れや自分すらも、
その存在が疑わしくなってしまう。
すべての存在を飲み込んでしまう、闇。
夜の世界。

蛍は、その夜の闇の中で、一斉に明滅を繰り返している。
寸分の狂いもない自然の光は、
闇が深ければ深いほど、美しく際立って見えるのだ。

光と闇。
その相反する性質が、お互いの存在を確かなものにし、
優れたものにしていることに気づく。
蛍火を美しくしているのは、闇。
その闇の存在をとらえた、鋭い感性が光る一句であろう。