呼吸のように・・・

俳句のエッセー

くわがた虫

倶利伽羅にある猿ヶ馬場で、
うろうろと俳句のネタを探していたときのこと。

一人の老人が車から降りてきて、
「虫をさがしているのか」と聞いた。
いえ、蝉の声もしたので、なんとなく…と答えると、
「ここには、よく、クワガタを捕りに来る人がいるから…」
と言った。

そう言って、大きな木の幹の上を差し、
「あそこに光っている。クワガタがいますよ。」
と教えてくれた。
小さな体が日を照り返して、動いているのがわかる。

「ちょっと、落としてみましょうか。」
そう言って、枝で落とされたクワガタは、
親指にも満たない小さなものだった。
ひっくり返って、もとに戻ることもできなさそうだ。
それを木に返してやる。

老人は、写真が好きで、
ここに来るテンや狐、リスの写真も見せてくれた。
信じられないほど、野生動物が住み着いているらしい。

クワガタも、どこにでもいた時代、
捕まえたクワガタで遊んでいると、もう一匹飛んできたりしたものだ。
労せず2匹になった、魔法のような時代だった。

老人に写真を見せてくれた礼を言い、
立ち去ろうとしたとき、老人は、
「熊に注意してくださいね。出ますよ。」
と言った。

自然の持つ、危険な顔も忘れてはならない…と思った。