エープリル・フールは、公然と嘘をつける楽しい日である。
とはいうものの、嘘をついてもいいよ、と言われると、
なかなか嘘がつけないもので、一生懸命、嘘を考えたりする。
そのことが、もう、すでに馬鹿馬鹿しいと言える。
これが嘘の特性のようで、
そもそも嘘というのは、
保身や相手を貶めるための、いやらしいものなのである。
楽しい嘘は、奇跡に近い。
いつか、年度末だというので、皆で街へ繰り出したことがあった。
その翌日の四月馬鹿の日、その中の一人が、
心配そうに、あちらこちらで聞いていた。
「昨日、ボク、何かしませんでしたか?」と言うのだ。
どうも、彼は酔って記憶がないらしい。
しかし、そうは見えなかった。
そこが危ないところらしく、酔うと、
クレジットカードをひけらかしたり、
大切な家のカギを見せびらかしたりして、
軽々しく他人に言ってはならないことを、大声で演説するというのだ。
しかも、酔っ払いに見えないから、洒落にならない。
彼の心配に反して、そのようなことはなかった。
が、今日は4月1日である。
「裸踊りしてたよ」
と言った。
「そう、良かった」と、安堵して言う。
「靴下だけになって、踊ってたんだよ!」と言っても、
「うん」と笑顔だ。
何で心配しないのか、問い詰めると、
「裸踊りなら、いくらでもしていいんです。
財布の中やら何やら見せてさえいなかったなら、何してもいいんです!」
と、言い放った。
裸を晒すことよりも経済的危機を招く方が、
大変なことだということか。
心底、安心した様子の彼は、見上げたものだと思った。
もちろん、私の嘘は、最初から見破られていた。
楽しい嘘の記憶と言えば、これぐらいかな…