父が亡くなった時、私は驚くほど冷静だった。
多分、しっかりせねば、という思いからだっただろう。
それと、覚悟ができていたからかもしれない。
見送りに来て下さった担当医に挨拶をして、看護師の方々とに送られて、
病院の特別な出入り口から出て行った。
月が出ていた。
8時20分、と告げられてから、2時間ほど過ぎていた。
春は名ばかりの寒い夜。
しかし、寒かったという記憶はない。
姉が父に付き添って、父が好きだった金沢の町を
ゆっくり、ゆっくり車を進め、深夜、家に戻ってきた。
あれほど帰りたがっていた父の家。
新築して、まだひと月半。
私たちに残してくれた、大切な家となった。
父が、最後にこの家を出て行ったのは、9日前。
もう、歩けなくなっていた父を、私が抱えて、車に乗せた…
覚悟はしていたものの、まさか、これほど早く別れがこようとは…
このような形で帰宅しようとは、思っていなかった。
(2009.2.6)