呼吸のように・・・

俳句のエッセー

俳句鑑賞(春)

妻連れて

妻連れて去年と同じ日記買ふ 柏 禎 何でもない一句です。 奥さまとご一緒に、日記を買いに行った、 それだけです。 仲睦まじいご夫婦で、引退なさったご主人とご一緒されているのでしょう。 実際、それはその通りだと思います。 掲句は、昭和52年の作。 そし…

布留

布留の里春菜を摘みて時忘る 細見綾子 「布留」は、奈良県天理市にある地名です。 石上神宮があります。 鶏が、たくさん放し飼いにされていましたが、 調べますと「神使」と言うのだそうで、 ただの「鶏」ではありませんでした。 他には、「七支刀」が有名で…

桃は八重

風吹かず桃と蒸されて桃は八重 細見 綾子 有名な一句です。 今日は、「雉」主宰 田島和生先生の鑑賞を公開いたします。 こちらは、雉HPにも掲載したいと準備しました。 まず、こちらのブログでご紹介いたします。 桃は八重

石棺

石棺の蓋の外るる初音かな 和生 一瞬、「え!」と思う一句です。 石棺の蓋が外れて、中から鶯が飛び出したのでしょうか。 あるいは、中からあらぬ何かが起き出して、 その時に鶯が鳴いた、というのでしょうか。 いえ、そうではありません。 これは、おそらく…

源平桃

源平古戦場。倶利伽羅峠の戦い。 源義仲が、奇襲により平家軍を打ち破った戦いでした。 この古戦場の麓に育った私たちは、 いわゆる「紅白戦」という呼び名はなく、 すべてが「源平戦」と言っていました。 騎馬戦、競技歌留多など、 「源平に分れて」チーム…

立金花

春の日は湖より昇り立金花 田島 和生 「風の会」第10回は、大津で開催されました。 沢木欣一先生が2001年にお亡くなりになり、 以来、続けられていた「風の会」でしたが、 第10回をもって最後となりました。 その日、琵琶湖近くのホテルに宿泊した私は、 湖…

春の風邪

天井を眺むる一ト日春の風邪 こんな感じです。 おやすみなさい。

うぐひすや うぐひすや

鶯や石垣に手をかけしとき 林 徹 今、俳誌「雉」のHPを担当しています。 今年35周年を迎えた「雉」の歴史を、 歴代の表紙と共に掲載しています。 今日、35年分の表紙を、すべて掲載することができました。 是非、俳誌「雉」HPのアーカイブの「雉資料館」から…

梅が香

梅が香にのつと日の出る山路哉 芭蕉 「のつと」が印象的な俳句です。 すべて暗記していなくとも、 「のつと日の出る」は、すぐに出てくる言葉でしょう。 日の出前に宿を発った翁は、間もなく、 山際を一気に見えなくしてしまうほどの光の塊が 昇って来るのに…

源平桃

源平桃 紅白の咲き分け桃です。 源氏の白旗と平家の赤旗が入り混じって、 戦う様子を思わせることから、 源平桃と呼ばれるようになりました。 源平古戦場、倶利伽羅峠に植えられています。 落日や源平桃の紅白に Chieri.F 源氏と平家が戦ったこの砺波山(倶…

春の月夜

熊笹に虫とぶ春の月夜かな 前田普羅 前田普羅。なぜか、普羅の俳句に目を留めてしまうのは、やはり、同じ土地に住んでいるからでしょうか。ちょっとした庭園、山の道に艶めく熊笹。熊笹は、春の雨に艶めき、春の雪に音を立て、いつも身近に見ることができま…

鳥帰る

鳥帰る水と空とのけじめ失せ 沢木欣一 (とりかえる みずとそらとの けじめうせ) 鳥の帰るころとなりました。 田舎の広い空に、小鳥たちが群れて、 水田の上を巡り、飛んでいました。 渡りの準備でしょう。 冬鳥たちは、春を迎えて、活発になっています。 …

春の水

山女の目金環嵌り春の水 沢木欣一 (やまめのめ きんかんはまり はるのみず) 山女はサクラマスの稚魚で、体長はせいぜい20㎝程度。 大きい魚ではありません。 その山女が春の水に目を輝かせていました。 春の水、つまり春の川は、 山の雪解水に嵩を増し、澄…

春の雪

春雪の暫く降るや海の上 前田普羅 (しゅんせつの しばらくふるや うみのうえ) 前田普羅。 先日から、春の雪となっています。 思わず積もってしまったのには、驚きました。 春になってからの寒さは身に堪えます。 掲句、淡い春の雪を詠っています。 海上に…

春光

春光や礁あらはに海揺るゝ 前田普羅 (しゅんこうや いくりあらわに うみゆるる) (まえだ ふら) 前田普羅です。 こちらは日本海でしょう。 「礁あらはに海揺るゝ」とは、恐れ入りました。 まず、「礁」が読めませんでした。 これは辞書で「いくり」と引け…

桃の花

桃の花牛の蹴る水光りけり 沢木欣一 (もものはな うしのけるみず ひかりけり) 昭和18年作。 『沢木欣一集』栗田やすし編(2019)によると、 「入隊を間近に原子公平と遊んだ関西の旅の一句」 だそうです。 学徒出陣式は10月20日。 東京帝大在学中の欣一は…

栗の花

眉濃ゆき妻の子太郎栗の花 沢木欣一 (まゆこゆき つまのこたろう くりのはな) 昭和25年作 「妻の子太郎」と書かれていますが、 妻(細見綾子先生)の連れ子ではありません。 れっきとした欣一、綾子の長男です。 自身が父でもあるというのに、 「妻の子」…

桃の葉

桃の葉の吸ひ込まれゆく山羊の口 沢木 欣一 (もものはの すいこまれゆく やぎのくち) 昭和21年の作品。 思わず目を見張りました。 山羊の口に吸いこまれる桃の葉とは、見事な表現です。 山羊が桃の葉を食んでいるところですが、 シュレッダーに紙が吸い込…

苜蓿(もくしゅく)

苜蓿や義肢のヒロシマ人憩ふ 沢木 欣一 (もくしゅくや ぎしのひろしまびと いこう) 季語「苜蓿」、春。 うまごやし、クローバーです。 昭和29年作。 終戦から9年、がむしゃらに走って来た人々も、 立ち止まって辺りを見渡す余裕が出てきた頃かもしれません…

春の雨

ときいろの雁行橋や春の雨 泊 康夫 雁行橋は、兼六園にある橋です。 亀甲橋とも呼ばれ、六角形の石が 雁が渡るように並べられているところから 名付けられました。 かつては、渡ることもできたのですが、 今は、橋の保護のため、渡ることができなくなってい…

春立つ

眼を瞑る和上に春の立ちにけり 泊 康夫 句集『麦星』より。 「和上」は、唐招提寺、鑑真和上像でしょう。 立春の、まだ肌寒さを感じる頃、 ふくよかな瞼を閉じている和上の像を仰ぎみて、 春の訪れを思いました。 春の気配は、空、雲、そして風に含む かすか…